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マッチング事例

事例②

温泉旅館がめざす組織づくりと
おもてなし観光ビジネスの創出


[業種]旅館業
株式会社あぶらや燈千
(下高井郡山ノ内町)

受け入れ企業

株式会社あぶらや燈千
代表取締役社長 湯本 孝之さん

北信州を代表する名湯・湯田中温泉の旅館。油問屋として創業し、1961年、温泉宿に事業転換。2002年には全国に先駆けて露天風呂付き客室を設け、館内を大幅リニューアル。宿名を「ホテルあぶらや」から「あぶらや燈千」へ改称。現在は 3 代目が代表取締役を務める。

客員研究員

リサーチ・フェロー
木村 綾さん

北海道出身・在住。北海道の大学で人権の研究をし、名古屋の大学院に進学。人権と国際法を勉強。修了後、大阪に本社がある帝人株式会社に 入社し、7年間人事部門に従事。その後、長野県のセイコーエプソン株式会社と東京都の株式会 社日立製作所でそれぞれ1年半、人事を担当。 2018年、札幌市にUターンし、ITベンチャー企業で人事総務のマネジメントポジションに転職。現在はフリーランスの人事コンサルとして独立し、中小企業の人事制度・採用支援を得意とする。

ミッション

採用した社員のエンゲージメント向上と定着。
人事制度の運用サポートと中間管理職のマネジメント力UP。事業拡大に向けた組織づくり。

リサーチフェローの取り組み成果

同社のデータや社員面談をもとに、「人材定着」の問題点を探りました。社員一人ひとりがチームや会社への貢献の視点をもちにくく、OJTで若手を育てられないという課題が浮き彫りになったため、部下や後輩を育てるほどチームが育ち、会社に貢献できれば各自の処遇も上がるというサイクルを社員全員が理解・体感できるよう、人事制度を見直し、運用のフォローをしていきたいと考えています。

近い将来の未来ビジョン・展望

上司と部下のコミュニケーションを通じたビジョン共有と目標管理や人材育成など会社組織の定着
計画的かつ適正な人材のマッチングによる新卒採用と社員の定着
認知心理学などから探る、日本旅館の接客サービスにおけるやりがいの創出やモチベーション維持
改善計画の作成から多角化経営を見据え、社員が安心して生き生きと働ける
組織づくりへ

未来のシナリオ

温泉街の旅館は、為替変動や流行に大きく左右されるビジネスです。100年企業をめざすためには、日本旅館として培ってきた「おもてなし」と「あぶらや燈千」創業家の起業精神を生かしつつ、現ビジネスモデルを脱皮する必要があると考えます。日本・世界のどこでもビジネスを継続できるよう、組織づくりと新規事業創出を支援していきたいと考えています。現社長はプログラム参加前から新規事業を模索しており、例えば、日本旅館をコンテンツ化し、海外発信や同業他社へのコンサルティングなどの多角化を考えています。既存組織を安定させ、ヒトや情報などのリソースを拡充できるよう、人事マネジメントを切り口にサポートをしていきたいと考えています。

受け入れ企業の感想と期待

かつてないユニークな企画と長期滞在のコンサルタントが魅力

当社は山ノ内町志賀高原の麓に広がる長野県内有数の温泉郷・湯田中温泉で創業 50余年を迎える温泉旅館です。今回のプログラムを私はFacebook 広告で知り、大学が関わって企業をブラッシュアップさせるプログラムはほかに聞いたことがなかったため面白そうだと興味を覚え、参画を決めました。日本人材機構に当社の現状を伝えるなかで、当社の課題を「今後の事業拡大のための組織の基盤づくり」と掲げ、リサーチ・フェローとのマッチングへ。面談した 2人のうち、より当社に合った課題解決を経験している木村さんへの依頼を決めました。
そもそも、当社ではこれまでも評価制度の作成や休日の取りやすいオペレーションの整備など、少しずつ組織づくりに取り組んでいた経緯があります。今回のプログラムも社員にとってはその延長線上という認識でしたが、通常、業務支援の形でコンサルタントが入るのは月に1~ 2 日ほど。それに対し、今回の木村さんは毎月1 週間といった長期滞在する点にも私は非常にメリットを感じました。

社長にも社員にとっても心強い、よき相談相手に

木村さんには、まずは当社の現状を調査してもらい、多くの従業員と話すことで状況を把握してもらいました。現在は改善計画を一緒に立案する段階。やはり近い距離感で一緒に経営に携わってくれるよき相談相手がいると私としては非常に心強く、物事も進みやすいと実感しています。また、木村さんは私が言わなくても現状を踏まえたアイデアをどんどん提案してくれるため、今は社内改革が順調に進んでいる手応えを感じています。社員にとっても採用活動のサポートなどもしてもらえる木村さんの存在は頼もしく、よき“お姉さん”として親しまれているのではないでしょうか。また、若手社員はなかなか私に直接言えなかったことも木村さんを通じて話せているようです。

コミュニケーション不足を指摘され、これまでとは違ったビジョン共有のための1 対1面談へ 

当社の一番の課題である「事業拡大に向けた組織づくり」は、これから取り組むところですが、個人的にはやりたかったもののどうしたらうまくいくか悩んでいたことが木村さんによって整理されましたし、自分が思い描いていた社内改革がこれで良いのか? と自分だけだとどうしても迷ったりすることがこれまではありましたが、木村さんの助言で自信がつきました。とてもよい後押しをもらっています。特に「組織に停滞ムードが漂っている原因はコミュニケーション不足」と指摘されたことで、今後は社員と1 対1 の面談をいつもとは違った形で予定しています。これまでの評価制度も1対1で面談していたものの、評価に関する対話だけで時間を使い切っていました。今後の面談は一人ひとりに会社のビジョン「組織・地域・顧客・業界」に対する私の考えや社員の未来への思いを伝え、各自の要望にも応えるものにし、これにより会社の未来と社員個人の未来を統合できるようにしていきたいと考えています。

企業と地域の持続可能な未来をつくる改善計画を立て、安心して生き生きと働ける組織へ

 今、当社が掲げている将来的なビジョンは「地域と観光産業の持続可能な未来をつくる」です。例えば、後継者問題に直面する旅館の事業を私たちが引き継げば、同旅館の従業員の雇用を守りつつ、当社としてもスピーディに事業が拡大できます。また、旅館だけではなく、ほかのBtoC事業や、観光周辺事業のさまざまな課題解決ができるBtoB事業など、異業種も含めた事業の多角化を図ることで、お客様にとってはさまざまな滞在のスタイルを提供でき、また地域と企業の活性化も同時に図ることで企業としても多様な相乗効果を望めます。休憩時間が長いため勤務時間が長くなってしまう旅館業はどうしても結婚・出産後は働きづらくなりますが、幅広い業種が生み出されることで社員にとって仕事の幅や働き方の多様性も広がります。
 そのためにも、木村さんとは今後、改善計画をしっかり掲げ、社員が安心して働ける職場環境と生き生きと仕事ができる組織づくりに少しずつ向かっていけたらと考えています。今回のプログラムは当社にとって非常に有効で、私一人ではわからなかったことも気付け、外部の新しい視点が入ることで経営の幅も広がりました。今後、こうしたリサーチ・フェローを受け入れる企業は、社員としっかり課題を共有し、今後の新しい方向性を一緒に感じることがマッチング成功のポイントだと感じています。

リサーチフェローの感想と期待

地方都市での経営や人事管理の研究をめざしてプログラムに応募

新卒でメーカーに入社し、人事総務部門でキャリアを形成してきました。夫の転勤で長野県・セイコーエプソン株式会社で働いたこともあります。 2018年からは出身地の札幌で人事部門の管理職として働いていますが、地方・中小企業の多くは人材育成の余裕がなく、仕事を通して人が成長し、会社や街の力になるサイクルが回っていないことに危機感を覚えていました。そんな時、 NPO法人ETIC. のメールマガジンで今回のプログラムを知り、100年企業のベースになる人事マネジメントの研究をしたいとの思いから応募しました。札幌・長野の距離の問題や、大学・企業・私の三者で研究テーマをうまくすり合わせられるか等、不安はいくつかありましたが、夫は応援してくれましたし、信州大学のプログラム事務局がマッチングの支援をしてくださり、「あぶらや燈千」の湯本社長と出会うことができました。プログラムが始まってからも事務局がこまめに企業と私の間に入り、研究テーマと企業支援実務が乖離しないようサポートしてくれています。

家族経営の旅館業で人材の定着のための本質的な取り組みとは

私はほかのリサーチ・フェローと働き方が異なり、月に1週間ほど集中して「あぶらや燈千」に滞在して働いています。私から社長にこの形を提示し、月30 万円の業務委託費のうち、10 万円程度を交通費として使っています。
当初、企業から提示された課題は「人材の定着のための施策」でしたが、人材が定着しない理由はひとつではありません。そこで、データ分析やMTGの観察、社員面談を行い、現状と課題を整理して社内で共有するところから始めました。今後は私が前職で学んできた管理手法、例えば、組織・人員管理、プロジェクト・マネジメント、目標管理制度などをカスタマイズし、同社の人事マネジメントを行っていきたいと考えています。
同社に限らず、接客サービス業は全体として離職率が高く、やりがい創出やモチベーション維持、長期的なキャリア形成などの課題があります。同社でベーシックな取り組みを行いながら、信州大学のサポートをもとに認知心理学など別の切り口からも対策を模索し、湯田中エリア全体や多くの宿泊業従事者が生き生きと働ける提案をしていきたいと考えています。

大学での学びの有効性、ほどよい規模感の街での働きがい

信州大学でのゼミや講義は初めて知る言葉や学術領域も多く、視野の広がりを感じますし、どのビジネスや職種でも基礎になる社会学・経営学の指導を受けられるのも魅力です。
また、「あぶらや燈千」では単純に社員が知らなくてできていなかったことも多く、私の経験をカスタマイズして提供するとすぐに変化が見られ、やりがいを感じます。例えば会議の進め方であれば、テーマ決めと進行役の設定、時間の管理を徹底させることで、非常に効率的になりました。過去、ほかのコンサルも似たようなことを教えたと思うのですが、伴走が必要だったのかなと思います。私は組織が自走できるまで伴走したいと思っています。加えて、同社がある湯田中渋温泉郷は、ほどよくコンパクトで歴史があり、同社の社長のような地元で育った人のほか、Iターンの事業家などもおり、この街で働く面白さを感じています。同時に、長野県民に愛される信州大学の一員として活動できることも、このプログラムの魅力だと感じています。

今後は信州大学の実務家教員に。
リカレント教育から得た充実感

このプログラムでは、リサーチ・フェローが選択すれば、論文執筆・発表をし、実務家教員への道をめざすことができ、私はチャレンジする予定です。10年ほどの社会人生活のなかで学びの幅が狭くなっていくのを感じていましたが、今回のリカレント教育では自分のバイアスを外せるような学びを得られました。興味がある人にはぜひおすすめしたいプログラムです。

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信州100年企業創出プログラム事務局
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