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マッチング事例

事例⑦

金属3Dプリンタの事業化から
柔軟性と多様性のある組織へ


[業種]製造業
株式会社タカノ
(松本市)

受け入れ企業

株式会社タカノ
代表取締役社長髙野 泰大さん

1972 年創業。精密板金加工、パイプ加工を行い、医療機器、液晶半導体製造装置メーカー向けに事業を展開。経営理念は「創造&チャレンジ」。 2017年に金属3Dプリンタを導入。2018年に「地域未来牽引企業」に認定。

客員研究員

リサーチ・フェロー
藤尾 宗太郎さん

福岡県出身、松本市在住。大学卒業後、エプソン販売株式会社に入社し、法人営業部門に9年間従事(中四国2年、首都圏7年)。入社6年目に働きながら2年間大学院へ通い、MBAを取得(中央大学大学院戦略経営研究科/田中ゼミマーケティング専攻)。その後、親会社である長野県のセイコーエプソン株式会社への出向に伴い東京から松本市に移住し、3年半、国内外の販売管理や製品企画に携わった。パラレルキャリアの構築や地方創生、多様な働き方や“溜まり場”の創出に興味をもつ。

ミッション

2017年に導入した金属3Dプリンタの事業化

リサーチフェローの取り組み成果

景気や政治、外国為替に左右される板金加工業界の状況は厳しく、既存の枠組みにとらわれない新たな経営活動が必要です。そうしたなか、金属3D プリンタの事業化はひとつの方向性であり、徹底したリサーチやビジネスプランニングを経て出展した展示会では大きな手応えを実感しました。今後は展示会来場者のフォローから販路拡大をめざし、信州大学や長野県工業技術総合センター、県内企業と連携し、“長野で金属3D プリンタといえばタカノ”の地位を確立したいと考えています。

近い将来の未来ビジョン・展望

実績を出し社内外に認知されることで、金属3D プリンタを事業化
挑戦を是とする雰囲気を社内で醸成

柔軟性ある組織設計で多様な働き方を望む多彩な人材を確保

未来のシナリオ

長年、金属加工を手がけてきた歴史ある会社が、次世代事業として注目が集まる3Dプリンタも扱っていることはタカノの強みです。今後は長野県内の産官学の技術連携を強化して高品質な造形品の製造から3Dプリンタの営業販路を拡大し、社内での認知度も高めることで社員のやりがいを高めるとともに、既存の枠組みにとらわれない柔軟性のある組織設計や新しいことへチャレンジする人材の育成につなげていきたいと考えています。また、人生100年時代に求められる多様な働き方(パラレルキャリアやクロスアポイントメント)や自分らしい生き方(2拠点生活など)を広く提案することで、若手が働きたいと思える魅力的な職場の整備や雇用創出、売上の向上などにつなげ、幅広く「ものをつくりたい人が集まりたい場」を創出することがタカノがめざす100年企業の未来像だと考えています。

受け入れ企業の感想と期待

新分野の金属3Dプリンタの事業化をリサーチ・フェローのミッションに

 当社は1972年に創業し、「創造&チャレンジ」を経営理念に掲げ、精密板金加工を中心に医療機器、液晶半導体製造装置メーカー向けに事業を展開しています。そうした板金業において、切断にも溶接にも欠かせないのがレーザー加工です。当社はドイツのレーザー装置メーカーと20年弱の取引があり、同社が金属の3Dプリンタに参入したことから、当社も2017年に全国で5台しか導入されていない装置を導入しました。
 私自身は大学卒業後、プロパー社員として入社し、2013 年に代表取締役社長に就任。そうしたなかで、創業40年を迎えた2018年には経済産業省の「地域未来牽引企業」に認定され、その認定企業サミットで日本人材機構と出合いました。そして、同社と信州大学が全国初の試みとして当プログラムを開始するとの話を聞き、すぐに参画を決意。信州大学とはこれまでなかなか接点をもてずにいたのですが、工学部等の研究面でのバックアップや人脈の広がり、学生のインターンシップなどを見据えると非常によいチャンスだと感じました。
 当初は当プログラムでボードメンバーの候補者育成を考えていましたが、期間が半年間と限られていることから、日本人材機構や信州大学と2回にわたるディスカッションを経て、前年に導入した金属3Dプリンタの事業化をリサーチ・フェローのミッションに決定。3 名の紹介を受け、年齢なども踏まえ、業界内で営業力の高さで知られる地元有名企業の営業職として働きながら大学院に通って勉強した経歴をもつ藤尾さんとのマッチングを進めました。日本人材機構や信州大学からのフォローも受け、藤尾さんとお互いにしっかりと要望を話し合う時間がもてたと感じています。特に事業化はゼロベースのスタートだったため、伸び伸びと活動してもらうためにもあえて私から方向性は示さず、月次決算なども行わず、自由に動いてもらうようしました。ただ、赤字状態ではあったため、ある意味では自分の給与も含めた事業運営を考えるようには伝えました。

展示会には通常の3倍以上が来場、社員の成長や新卒採用にも発展

藤尾さんにはまずは現状と数字面を説明し、その後は報告・連絡・相談を常に行うことで独自の方法で事業化を進めてもらっています。ふらっとパソコンを持って藤尾さんの席に行き、気軽な雑談で日々コミュニケーションを図っています。面白いのは、戦略的に展開しなくとも、こうした3Dプリンタの担当スタッフがいるだけでさまざまな縁やお客様が増えるということ。その流れから長野県工業技術総合センターが長野県内の製造業者を集めて当社で3Dプリンタのセミナーを開催し、ドイツの金属3Dプリンタメーカーの技術担当者もプレゼンをしてくれたことで、次の展開に向けたさまざまな話が広がりました。
 また、2月には東京ビッグサイトで開催された第1回次世代3Dプリンタ展に出展。通常、板金業界では3日間の展示会で300人が集まれば十分ですが、今回はその 3 倍以上である1000人もの人が当社のブースに足を運んでくれたことは想像以上でした。また、社内からは「3Dプリンタで釣り具のルアーを作りたい」といった社員の声もあがっており、実際、展示会には有名釣り具メーカーも足を運んでくださったことから、社員にとって3Dプリンタが板金以外の目標をもつきっかけや成長につながることも喜ばしく感じています。さらに、私が社長に就任後、新卒採用を行っていなかったのですが、この1年間で30人もの学生が3Dプリンタの見学に訪れ、今回、初の新卒採用にもつながりました。

実現可能性の高いテーマを絞り、
互いに気負わず仕事を進めること

藤尾さんにとっては、今回の展示会が当プログラムの集大成にはなりますが、今後も当社に残ってもらわないと困るという状況をつくり出したことは、彼の勝利だと思っています。これが、半年間の当プログラムにおける一番よいマッチングではないでしょうか。次年度以降は社員として直接採用をする方向で話を進めています。
 当プログラムに参入するにあたり、大切なのはテーマをきちんと絞ることと無謀な計画を立てないこと。リサーチ・フェローとお互いに肩肘を張ったまま仕事をしないこと。そして、仮にプログラムがうまくいかなくても得るものは必ずあるという心持ちで取り組むのがよいでしょう。日本人材機構も信州大学も猛烈にフォローアップをしてくれることもこのプログラムの大きな利点だと感じています。

リサーチフェローの感想と期待

働きながら学び、地方創生に関われ、パラレルキャリアも築けるプログラム

大学卒業後にエプソン販売株式会社に入社し、法人営業部門に9年間従事しました。入社 6 年目には経営について専門的に学びたい思いから、2年間社会人大学院に通ってMBAを取得。そうしたなか、競合他社に勤務する社会人大学院の学友たちがグローバル志向であることに脅威を感じ、親会社である長野県のセイコーエプソン株式会社への出向を希望して、3 年半、国内外の販売管理および企画に携わりました。
 当プログラムは日経新聞の記事から知り、働きながら学べること、また、妻が長野県出身で、経営に近い立場で長野の地方創生に関われることに魅力を感じました。また、大手企業で働くなかで自由に働きたい気持ちが強く芽生えてきたことと、時短勤務やライフワークバランスを重視する勤務体制などさまざまな働き方をしている人たちに出会い、私は特にパラレルキャリアを体現したい思いがあったため、企業で働きながら信州大学で研究ができる当プログラムに興味を抱いて応募しました。
 日本人材機構から紹介を受けたのが、株式会社タカノです。社長にお会いするとエネルギッシュかつアクティブな人柄に好意的な印象を覚えました。当初のテーマは「財務部での経理の見える化」でしたが、その後「金属3Dプリンタの事業化」に変更。私としてはプリンタメーカーの営業職出身であり経営にも興味があるため、非常に望ましい展開でした。社長からはシンプルに「今発生している原価をペイし、損益分岐点の突破をまずはめざしてほしい」と言われました。

好評を博した展示会で手応えを実感今後は板金業と3Dプリンタを強みに

社長はほぼ毎日、私がいる3Dプリンタ室に来てくださり、常に報告や相談ができる環境です。そうしたなか、最初の 1~ 2 カ月は徹底的にマーケティングリサーチを実施。次に、販売方法やターゲッティング、利益向上といったビジネスプランニングを考え、現在はセールスプロモーションのステージにいます。1~2月は長野県下の製作所や精密機器メーカーなどを訪問するBtoB ビジネスを開拓。また、先日は東京ビッグサイトで開催された第 1 回次世代3Dプリンタ展に出展しました。それに先立ち、タカノの顧客やコネクションに対して招待状を徹底的に配布。当日は多数の造形品を手に取れるよう並べ、社長とは「楽しく一緒にやろう」をコンセプトに掲げていたため、「一緒に3Dプリンタで面白いものを作りませんか」というシンプルなメッセージをブースの装飾として全面に張り出しました。結果、予想を上回る集客が見られ、今度は長野に留まらず多くの企業から引き合いが来ると手応えを感じています。
 また、私はやはり3Dプリンタと板金は切り離せないものであり、長年、金属加工を手がけてきた歴史ある会社が3Dプリンタも扱っていることはタカノの強みであるとも感じています。そこで、社内でも展示会の手伝いなどなるべく多くの人に関わってもらった結果、現在は社内における3Dプリンタの認知度も上がってきたと感じています。私の役目はこのように、タカノの既存の体制を柔軟にさせることもひとつだと感じています。

勤務を続けつつ大学や地域とも連携し、働き方の多様性や「溜まり場」を創出

なお、現在は週 4日は企業で働き、金曜日の大学でのゼミで強制的にその4日間を客観視したうえで企業を100年という視点から考察し、思考として大きな変化を感じています。また、働き方としてもメリハリのあるよい生活サイクルで、視野の広がりも感じています。
 今後は3月末までに技術連携を進め、展示会の来場者のフォローを通じて営業販路拡大に集中し、3Dプリンタの事業化を推進していくことが目標です。その後はタカノでの勤務を続けながら、信州大学とは外部講師などで連携し、学生に私の経験を語るようなセミナーの開講など、働き方の多様性にもリーチしたいと考えています。そして、私は昔から人々が自由に集まれる「溜まり場」を作りたいという思いがあるため、地域にも関わりながら地方創生に参加することが、引いては首都圏で2 拠点生活やパラレルキャリアといった働き方を求める若者に対し「面白い働き方をしている会社がある」と魅力を伝えることになり、結果的に雇用や売上につながると感じています。当プログラムはそうした働き方を半年間全力で取り組めるチャンス。興味がある方にとってチャレンジの価値はあると感じています。

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